
かつて日本の都があった奈良は漢方薬伝来の地とも言われ、日本書紀・巻第二十二(611年)に「夏五月の五日に、菟田野(現・奈良県宇陀市)に薬猟(くすりがり)す。」と記録が残るように、古くから漢方薬と深い関わりがありました。この薬猟とは、鹿の角をとり、薬草を摘む宮中行事で、そのルーツは高句麗と古代中国だと言われています。現在でも奈良には製薬会社や漢方薬局が多く、中には約700年の歴史を持つところも。
薬酒として生まれたジンは、その原材料が漢方薬に使われる薬草と共通するものもあり、奈良らしさを描くための最高のキャンバスだと考えました。
ジンのルーツは、薬用効果があると言われていたジュニパーベリー入りの医療用飲料。14世紀に入りヨーロッパで蒸留技術が発達したことで、洗練された蒸留酒として発展し、味わいを追求されるようになりました。
ジンが歴史の表舞台に立ったのは、オランダ出身のウィリアム3世が英国王になった1689年以降。オランダから持ち込まれたジンが、イギリスでブームを巻き起こしました。その後のイギリス政府による度重なる法規制が、結果的にジンの質を高めることになり、世界に広がりました。2000年に入ると高品質なボタニカルを使用したプレミアムジンが誕生し、ジンをさらに進化させました。現在では世界各地で風土が溶け込んだジンを作る小さな蒸留所が生まれ、クラフトジンとしてさらにジンの世界が広がっています。
ジンの定義は至ってシンプル。ひとつ目は、アルコール度数37.5%以上であること。ふたつ目は、ジュニパーベリーで香り付けをしていること。この2点を守れば、どんなボタニカルやスピリッツを使ってもいいという自由度の高さがジンの魅力です。そのため、世界中から集めたボタニカルをブレンドした港町らしいジンから、自家栽培の農作物を使用したクラフト感の強いジンまで、その土地ならではのジンが存在します。